とある放射線治療医の備忘目録

とある放射線治療医の覚書

子宮頸がん(IB2-IIB期) 術前化学療法+手術 vs 同時化学放射線療法(EORTC-55994)

Kenter GG et al. J Clin Oncol. 2023. PMID 37656948

 

・子宮頸がん(IB2-IIB)に対する術前化学療法+手術 vs 化学放射線療法

 

・第3相ランダム化試験、EORTC-55994

・対象:626例の子宮頸がん(IB2-IIB)の患者を術前化学療法+手術群(NACT群 314例)と同時化学放射線療法群(CCRT群 312例)にランダム化

・主要評価項目:5年全生存率

 

・経過観察期間(中央値)8.7年、198例(32%)の患者が死亡

プロトコール治療完遂率:NACT群 71%、CCRT群 82%

・主な治療中断理由:NACT群(毒性 10%、病勢増悪 7%)、CCRT群(毒性 7%、患者の治療拒否 4%)

・NACT群では術後放射線治療が48%の患者に対し行われ、CCRT群では8%の患者に追加手術が行われた。

・有害事象(G3+):短期的なものはNACT群に多く(41% vs 23%)、長期的なものはCCRT群に多かった(21% vs 15%)

・同時化学放射線療法と比較して、術前化学療法+手術による5年全生存率の改善なし

・5年全生存率:NACT群 72%(95% CI 66-77%)、CCRT群 76%(70-80%)

・無増悪生存率はNACT群で不良で、5年無増悪生存率:NACT群 57%、CCRT群 66%(HR 0.73, 95% CI 0.57-0.93)

 

<結論>子宮頸がん(IB2-IIB期)の患者において、同時化学放射線療法と比較して、術前化学療法+手術による生存成績の改善効果は認められない。

多発脳転移に対する定位照射/2-10個 vs. >10個

Nagai N et al. J Neurooncol. 2023. PMID 37286638

・脳転移に対する定位照射、>10個 vs. 2-10個

・後ろ向き研究、日本(愛知県がんセンター)

・対象:多発性脳転移に対し定位照射施行例(2014-2022年)、全脳照射施行例、KPS 60未満、髄膜病変の疑い、単発性脳転移は除外

・患者を脳転移の数により2-10個と>10個群に群分けを行い、傾向スコアにより(2:1)の割合でマッチさせた

・1,042例が同定され、434例が組み入れ基準を満たした

・傾向スコアマッチング後、240例(2-10個群 160例、>10個群 80例)を比較

全生存期間(中央値):2-10個群 18.2ヶ月、>10個群 19.4ヶ月(NS)HR 0.86, 95% CI 0.59-1.24

・無増悪生存(4.8ヶ月 vs 4.8ヶ月, NS)にも有意差を認めず

<結論>今回の傾向スコアマッチングを用いた比較では、脳転移 2-10個と比較して、10個を超える患者に対する定位照射後の全生存は非劣性

10個以上の多発脳転移に対する定位照射後の生存成績

Rozati H et al. BMC Cancer. 2023. PMID 37858075

・10個以上の多発脳転移に対する定位照射

・システマティックレビュー

・15件の研究をシステマティックレビューに、12件の研究をプール解析に組み入れ

・全生存期間(中央値):8.2ヶ月

・全生存率:6ヶ月 53%、12ヶ月 31%、24ヶ月 13%

・5件の研究により10個以上と10個未満を比較すると、10個以上の脳転移では全生存が不良(1.10, 95% CI 1.03-1.18)

・毒性のメタ解析を行うための情報は不十分。

<結論>10個以上の多発脳転移患者に対する定位照射後の全生存成績は許容できるものであり、定位照射の施行を妨げるものではない。毒性に関する結論を得るには現時点ではデータ不足。

非小細胞肺がんに対する放射線治療後の肺臓炎、背景肺疾患と肺臓炎リスク

Kim H et al. BMC Cancer. 2023. PMID 37848850

・非小細胞肺がんに対する根治的放射線療法後の放射線肺臓炎、背景の肺疾患に焦点を当てて

・後ろ向き研究、韓国

・対象:175例(2019年6月-2022年6月)、I-III期非小細胞肺がん、根治照射施行例

・特発性肺線維症(IPF)(SS)、化学療法の同時併用が行われる病期(SS)が重症の放射線肺臓炎発症と関連。

・多変量解析;特発性肺線維症(IPF)が重症の放射線肺臓炎と関連(OR 48.4)

・I-II期のサブグループ解析;重症の放射線肺臓炎発生率:コントロール群 3%、慢性閉塞性肺疾患群(COPD) 4%、特発性肺線維症(IPF)群 43%(SS)

・III期非小細胞肺がんのサブグループ解析;重症の放射線肺臓炎発生率:コントロール群 15%、閉塞性肺疾患群(COPD)11%、特発性肺線維症(IPF)群 75%(SS)

<結論>間質性肺線維症(IPF)と化学療法の併用が重篤放射線肺臓炎リスク上昇と関連。慢性閉塞性肺疾患COPD)と肺毒性リスクとの相関なし。

 

非小細胞肺がん、脳転移に対する放射線治療とPD-1/PD-L1阻害薬併用シーケンス


 

Yu Y et al. J Neurooncol. 2023. PMID 37848757

・非小細胞肺がん、脳転移。PD-1/PD-L1阻害薬と放射線治療の併用シーケンスと治療成績

・後ろ向き研究、中国

・RT2週以前にICI投与群、同時併用群、RT後2週以降にICI投与の治療成績を比較

・対象:73例、経過観察期間(中央値)14ヶ月

・RT2週以前にICIが投与された患者では、頭蓋内の局所無増悪生存、遠隔無増悪生存が不良で、全生存も不良

・メタアナリシスを行い、合計4研究、254例を組み入れ解析

・同時併用と比較して、RTの2週以前にICIが投与された患者で頭蓋内遠隔無増悪生存(HR 0.21, SS)、全生存(HR 0.42, SS)が不良

・RT後2週以降にICIが投与された患者群と比較して、RTの2週以前にICIが投与された患者で頭蓋内無増悪生存(HR 0.21, SS)、全生存(HR 0.32, SS)が不良

・頭蓋内の全奏功率は、放射線治療とICI投与の期間が長い場合悪化し、RTとICI投与の間隔が7日以内で全奏効率が最も良好な結果

<結論>非小細胞肺がん患者において、ICI投与から放射線治療までの期間が長い患者で、頭蓋内局所無増悪生存、頭蓋内遠隔無増悪生存、全生存が不良。放射線治療とICI投与の期間が短い場合、奏効率が高かった。

 


有害事象/放射線肺臓炎/デュルバルマブ

有害事象/放射線肺臓炎/デュルバルマブ


 

Wang Y et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2022. PMID 34963558

・III期非小細胞肺がんに対する化学放射線療法とデュルバルマブによる地固め療法

・システマティックレビュー/メタアナリシス

・対象:13研究、1,885例

肺臓炎発生率:35%、肺臓炎(G3+)発生率:6%

・肺臓炎(any grade)の発生率は高齢(>65歳)(p=.008)やアジアからの報告(p=0.017)で高く、expanded access program関連の研究では低かった(p=0.024)

 

Park CK et al. J Thorac Oncol. 2023. PMID 37085032

・III期非小細胞肺がんに対する化学放射線療法とデュルバルマブによる免疫療法

・PACIFIC-KR、韓国

・157例を登録、経過観察期間(中央値):19.1ヶ月

・PD-L1高発現(>50%)の患者で無増悪生存が良好(p=0.043)、ステロイド治療を必要とする放射線肺臓炎の発生を認めた患者で無増悪生存が不良(p=0.036)。

・肺臓炎:36%、ステロイド治療を要する肺臓炎:27%、免疫関連有害事象:34%

デュルバルマブによる地固め療法を開始する前の単球-リンパ球比が高い患者でステロイド治療を要する放射線肺臓炎(OR 44.76, p<0.001)や免疫関連有害事象(OR 2.85, p=0.011)の発生リスクが高かった

 

Atlan M et al. Clin Oncol (R Coll Radiol). 2023. PMID 37507279

・局所進行非小細胞肺がんに対する化学放射線療法と免疫チェックポイント阻害薬による地固め療法に伴う肺臓炎

・後ろ向き研究、米国

・対象:140例、局所進行肺がんに対し同時化学放射線療法および免疫チェックポイント阻害薬投与例

・累積肺臓炎(G2+)発生率:23%

・多変量解析:平均肺線量(HR 1.14 per Gy)、間質性肺疾患(HR 3.8)が肺臓炎リスク上昇と関連

 


【デュルバルマブ投与のタイミング】

Yang Z et al. BMC Cancer. 2023. PMID 37817073

・局所進行非小細胞肺がんに対する化学放射線療法とデュルバルマブによる地固め療法に伴う肺臓炎

・デュルバルマブ投与タイミングと肺臓炎リスク

・システマティックレビュー/メタアナリシス

・9研究、2,560例を組み入れ解析

肺臓炎(G3+)発生率:5.4%

放射線治療終了からデュルバルマブ投与開始までの期間が42日以内の肺臓炎(G3+)発生率:4.1%、1年無増悪生存率:61%

<結論>放射線治療終了からデュルバルマブ投与開始までの期間が42日以内の場合、肺臓炎の発生リスクの上昇や無増悪生存の悪化はなく、治療間隔が短くても肺臓炎の発生リスクに有害な影響はない様子。