とある放射線治療医の備忘目録

とある放射線治療医の覚書

ESMO 前立腺がん診療ガイドライン 2020、限局性/局所進行がんに対する根治治療

【まとめと雑感】

・転移のない前立腺がんに対する根治的な治療としては、主に手術と放射線治療(外照射、低線量率小線源治療)があります。

・手術と放射線治療、どちらが良いのかは現時点では不明で悩ましい問題なのですが、それぞれの治療には良い面、悪い面が存在します。

・治療を行う場合には、泌尿器科医 および 放射線腫瘍医/放射線治療医の話を聞いて、どのように治療を行っていくか決めることが大切だと思います。

・また、低リスクの患者さんでは、過剰な治療/余計な副作用を避けるため、監視療法(active surveillance)も良い選択肢だと思われます。

 

 

Ann Oncol. 2020;31:1119-1134. PMID: 32593798

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

ESMO Clinical practice guidelines (2020) 

 

【局所/局所領域病変の治療】

・限局性病変に対する適切な治療に関するコンセンサスはない。

・患者に対して、異なる治療法のベネフィットと害に関して説明を行うべきである。

・治療にあたっては、治療法によりことなる副作用があり、泌尿器科医および放射線腫瘍医/放射線治療医へのコンサルトの機会を設ける必要がある。

前立腺がんに対する治療により、性機能障害、不妊、消化管および尿路障害を起こる可能性がある。

 

・根治治療が適さない、または根治治療を希望しない患者では、待機療法(watchful waiting)を行い、症状の増悪時にホルモン療法を行うことも治療選択肢である。

・監視療法(active surveillance)は、PSA値のモニタリングを行い、生検やMRIを繰り返し行うことで、病勢増悪が明らかとなった場合に根治治療を行う治療戦略である。

・異なる監視療法を比較するエビデンスは存在しない。

 

・根治治療には、前立全摘除術(radical prostatectomy, RP)、外照射(external beam radiotherapy, RT)および低線量率小線源治療(low-dose-rate brachytherapy)がある。

前立腺全摘術と待機療法を比較した2つのランダム化比較試験が報告されている。

・Scandinavian Prostate Cancer Group (SPCG) Study 4では、PSA検査がルーチンに行われていなかった1990年代に695例が登録された。

・平均経過観察期間29年後、前立腺がんによる死亡率は前立腺全摘除術群 20.4%、待機療法群 31.6%であった。

前立腺全摘除術群で勃起機能障害(80% vs. 45%)、尿もれ(49% vs. 21%)の頻度が高かったが、治療患者の多い施設ではこれらの頻度は一般化できないかもしれない。

・PIVOT試験では、1994年から2002年の期間に、北米男性 731例が集積された。

・PSA検査にて検出された患者が多く、合併症を有している頻度が高かった。

前立腺全摘除術群と待機療法群の全生存に有意差は認められなかった(HR 0.88, 95% CI 0.71-1.08)。

・低リスク群 296例において、前立腺がんによる死亡リスクは12年で<3%、手術によるベネフィットは認められなかった。

前立腺がん特異的死亡(HR 1.48, 95% CI 0.42-0.54)および全死亡(HR 1.15, 95% CI 0.80-1.66)はいずれも待機療法群で良好であった。

・しかしながら、10年時点での死亡率が50%程度と報告されており、合併症を有した患者が集積された結果と考えられる。

 

・ProtecTはランダム化第3相試験で、積極的治療(前立腺全摘除術 または 放射線治療)と監視療法(ベースラインの値から>50%のPSA上昇した男性に対し繰り返し生検を施行)の比較が行われた。

・限局性前立腺がん1643例が集積された。

・中央経過観察期間10年後、前立腺がん特異的生存に差異は認められず、3群いずれも99%であった。

・しかしながら、監視療法群で骨転移の頻度およびホルモン療法(アンドロゲン抑制療法)が必要となる頻度が高かった。

 

・限局性高リスクまたは局所進行病変に対し根治的局所治療が加えられる場合、2つのランダム化比較試験が基となっている。

・SPCG-7試験では875例の男性に対し、3ヶ月間のLH-RTアゴニストと抗男性ホルモン剤の併用 (combined androgen blockade, CAB)療法後にフルタミドの単剤治療が行われた。

・同試験では、前立腺に対する根治的放射線治療行うかどうかランダム化が行われた。

前立腺に対する根治的放射線治療により、疾患特異的死亡(11.9% vs. 23.9%; p<0.001)および 全死亡(29.6% vs. 39.4%; p=0.004)が減少した。

・National Cancer Institute of Canada/Medical Research Council (NCIC/MRC)による試験では、高リスク前立腺がん患者が、アンドロゲン抑制療法の永続(lifelong androgen deprivation therapy)単独治療群とアンドロゲン抑制療法の永続と放射線治療を行う群にランダムされた。

・アンドロゲン抑制療法へ放射線治療を追加することにより、7年生存率を66%から74%へ向上させた(p=0.003)。

 

前立腺に対する根治的放射線治療施行例において、強度変調放射線治療(intensity modulated radiotherapy, IMRT)や画像誘導放射線治療(image-guided radiotherapy, IGRT)を用いて高線量照射を行うことにより、PSA(生化学的)制御を改善させ、毒性は許容範囲におさめることが可能である。

・通常分割照射と比較して、中等度の寡分割照射は、PSA/生化学的制御において非劣性で、治療期間を短縮でき、毒性は許容範囲である。

 

・高リスク前立腺がんで、前立腺全摘除術で治療された患者では、しばしば術後放射線治療±アンドロゲン抑制療法による治療が必要となる。



【ネオアジュバントおよびアジュバントホルモン療法】

・多数のランダム化比較試験において、高リスクまたは局所進行前立腺がんに対する放射線治療との併用において、アンドロゲン抑制療法のネオアジュバントおよび同時併用の有用性は確立している。

・たとえば、Trans Tasman Radiation Oncology Group (TROG)96-01試験では、局所進行前立腺がん患者818例が、放射線治療単独群、ネオアジュバントおよび同時CAB併用放射線治療群 および 放射線治療と6ヶ月間のCAB療法施行群にランダム化された。

放射線治療単独と比較して、6ヶ月間のCAB療法の併用は全死亡リスクを低下させた(HR 0.63, 95% CI 0.48-0.83)。

・同様に、Radiation Therapy Oncology Group (RTOG)8610試験では、T2-4の前立腺がん患者456例が登録され、4ヶ月のネオアジュバントおよび同時アンドロゲン抑制療法の追加により、10年前立腺がん特異的死亡リスクが低下した(23% vs. 36%; p=0.01)。

 

・中リスク前立腺がんは、favorable (予後良好) と unfavorable (予後不良)のカテゴリーに分類された。

・Unfavorable intermediate-riskは、primary Gleason pattern 4、percentage of positive biopsy cores 50%以上 または 中リスク因子2つ以上(cT2b-c、グリソンスコア7、PSA値 10-20)と定義されている。

・Favorable intermediate riskと比較して、unfavorable intermediate riskでは治療成績が不良で、ネオアジュバントアンドロゲン抑制療法のベネフィットによるベネフィットが大きいかもしれない。

 

アジュバントアンドロゲン抑制療法(放射線治療後のアンドロゲン抑制療法)に関しても多数のランダム化比較試験で研究が行われた。

・RTOG 92-02試験では、1554例が放射線治療に、4ヶ月間のアンドロゲン抑制療法を追加する群と28ヶ月間アンドロゲン抑制療法を追加する群にランダム化された。

・予定外のサブグループ解析(unplanned subgroup analysis)において、アジュバントアンドロゲン抑制療法を追加したグリソンスコア8ー10の患者では、全生存が良好であった(81.0% vs. 70.7%; p=0.044)。

・European Organisation for Research and Treatment of Cancer (EORTC) 22961では、970例の局所進行前立腺がん患者 970例を根治的放射線治療へ、6ヶ月間のアンドロゲン抑制療法を追加する群と36ヶ月のアンドロゲン抑制療法を追加する群へランダム化された。

・5年全死亡率は、短期併用群 19.2%、長期併用群 15.2% (HR 1.42; CI 1.09-1.85)であった。

 

・最近、高リスク前立腺がん患者630例をアジュバントアンドロゲン抑制療法(18ヶ月と36ヶ月)の比較試験の結果が報告された。

・中央経過観察期間 9.4年、5年全生存率:36ヶ月群 91%、18ヶ月群 86% (p=0.07)であった。

・比較的小規模なランダム化試験で、EORTC 22961より予後良好な患者が含まれているものの、長期のアンドロゲン抑制療法による毒性の増加があり、18ヶ月程度の期間が好ましい患者群も存在する可能性がある。

 

前立腺がんに対する前立腺全摘除術が行われた患者で、リンパ節転移陽性に対するアジュバント治療の大規模なランダム化比較試験の結果は報告されていない。

・2596例の大規模な後ろ向き研究の結果から、pT3b/T4 および/あるいは切除断端陽性例では、アジュバント(術後)放射線治療単独と比較して、アジュバント放射線治療へ2年間のアンドロゲン抑制療法を併用した患者で8年前立腺がん特異的死亡が少なかったと報告されている。

・しかしながら、術後のPSA値をトリガーとした経過観察やPSA上昇時のアンドロゲン抑制療法の開始は含まれていない。

 

【M0病変に対するネオアジュバント ドセタキセル療法】

・高リスク限局性前立腺がんに対する早期のドセタキセルをベースとした化学療法が6つのランダム化比較試験で検討された。

・GETUG-12では、標準治療(アンドロゲン抑制療法3年間と放射線治療)へのドセタキセル-エストラムスチンの追加の有効性の検討が行われた。

・主要評価項目の無再発生存(relapse-free survival, RFS)の改善がみられた(HR 0.71, 95% CI 0.54-0.94; p=0.017)

・最近、長期経過観察結果(中央経過観察期間 12年)が報告され、ドセタキセルによる臨床的(遠隔再発/局所再発 または 死亡)無再発生存の改善効果が認められた(中央臨床的無再発期間 13.9年 vs. 12.5年, HR 0.75, 95% CI 0.56-1.00; p=0.0491)

・RTOG 0521では、2年間のアンドロゲン抑制療法と放射線治療へ6サイクルのドセタキセルを追加することの有用性の検討がなされた。

ドセタキセル加群で無再発生存が良好な傾向がみられた(HR 0.76, 95% CI 0.57-1.00; p=0.05)。

ドセタキセル加群で全生存は良好な傾向がみられたが、統計学的に有意ではなかった(one-sided p=0.03; HR 0.68; 95% CI 0.44-1.03)

・STAMPEDE試験でランダム化された患者のうち、高リスク前立腺がん(および/あるいは骨盤リンパ節腫大)では、ドセタキセル群で無再発生存が良好であった(HR 0.60; 95% CI 0.45-0.80; p=0.283x10-3)

・これら3ランダム化試験のメタアナリシスでは、限局性高リスク前立腺がん患者に対するドセタキセル療法の無再発生存の改善における有用性が支持(HR 0.70, 95% CI 0.45-0.81; p<0.0001)されたが、全生存のデータに関してはまだはっきりしない。

 

・3つの試験(SPCG-12、SPCG-13、VA Cooperative Study Program #553)では、中間解析データが報告されたが、無再発生存のベネフィットは認められていない。

・SPCG-13試験では、再発リスクが比較的低く、ベネフィットが得られにくい患者が含まれていた可能性がある。

・SPCG-12試験では標準治療としてアンドロゲン抑制療法が行われていなかった。

・VA CSP #553試験ではドセタキセル群で良好な傾向が認められたものの、登録症例数がすくなった(297例)

 

・限局性高リスク前立腺がん患者では、生存成績差を示すためには長期の経過観察が必要となる。

・これらの試験の長期成績のデータが得られるのは2020-2025年頃となる。

・現在得られているデータから、多数の再発リスク因子が存在する若年の患者では、ドセタキセルをベースとした化学療法は治療オプションとなりうる。

 

とある放射線治療医の備忘目録(まとめ)

http://radiatpost.info/wiki/toc/

 

【関連】

前立腺癌診療ガイドライン 2016年版
前立腺全摘除術
http://www.jsco-cpg.jp/prostate-cancer/guideline/#VIII

放射線療法(外照射)

http://www.jsco-cpg.jp/prostate-cancer/guideline/#IX

10放射線療法(組織内照射)

http://www.jsco-cpg.jp/prostate-cancer/guideline/#X