とある放射線治療医の備忘目録

とある放射線治療医の覚書

リンパ節転移陰性/非浸潤性乳管がん(DCIS)に対する乳房温存照射;短期照射は安全に施行可能?

【まとめ】

・早期乳がんに対する乳房温存手術後に放射線治療を行うことにより、乳房内からの再発を減少できることが知られています。

・以前は、手術が行われた乳房に対し、50 Gy/25回(約5週間)の照射が行われていました。

・海外のランダム化比較試験の長期成績が報告され、日本でも50歳以上、化学療法歴のない患者さんなどでは、40-42.56 Gy/15-16回(約3週)での短期/寡分割照射を行う施設も増えてきています。

・浸潤がんでは短期照射/寡分割照射は通常分割照射に治療成績/安全性で劣らないことが示されているのですが、非浸潤がん(DCIS)ではまだはっきりしていません。

・今回の試験でもDCISの患者さんの数は比較的少なく、DCISの患者さんでも短期照射/寡分割照射を選択して良いのかに関しての結論は、現在進行中の試験結果の報告を待つ必要がありそうです。

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DBCG HYPO trial. Offersen BV, et al. J Clin Oncol. 2020. PMID: 32910709

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32910709/

 

・早期乳がん/非浸潤性乳管がん(ductal carcinoma in situ, DCIS)に対する乳房温存術後放射線治療

・短期照射/寡分割照射(40 Gy/15回)と通常分割照射 (50 Gy/25回)の比較

・ランダム化比較試験、DBCG HYPO trial

 

対象と方法:

・対象:1882例、40歳以上、乳房温存手術施行、リンパ節転移陰性乳がん、浸潤性乳がん/非浸潤性乳管がん(ductal carcinoma in situ, DCIS)

・短期照射/寡分割照射群 40 Gy/15回と通常分割照射群  50 Gy/25回にランダム化

・主要評価項目:3年 Grade 2-3 乳房硬化、局所領域再発の非劣性

 

結果:

・2009-2014年、1854例(50 Gy群 937例、40 Gy群 917例)が登録

・腺がん 1608例、DCSI 246例

・3年乳房硬化(Grade 2-3):50 Gy群 11.8% (95% CI 9.7-14.1)、40 Gy群 9.0% (95% CI 7.2-11.1) (risk difference, -2.7%, 95% CI -5.6 to 0.2; p=0.07)

・全身治療やブースト照射による乳房の効果リスクの上昇はなかった。

・毛細血管拡張、色素沈着、創部の外観、浮腫、疼痛の頻度は低く、美容成績および乳房の外観の患者満足度は、差がないか40 Gyで良好であった。

・9年局所領域再発リスク:50 Gy群 3.3% (95% CI 2.0-5.0)、40 Gy群 3.0% (95% CI, 1.9-4.5)(risk difference -0.3%, 95% CI -2.3 to 1.7)

・9年全生存率:50 Gy群 93.4% (95% CI 91.1 to 95.1)、40 Gy群 93.4% (95% CI 91.0 to 95.2)

放射線関連性心臓障害、肺障害の発生率は、線量分割による差異を認めなかった

 

結論:

・リンパ節転移陰性浸潤がんまたは非浸潤性乳管がん (DCIS)に対する乳房温存術後放射線治療において、通常分割照射と比較して、寡分割照射後の乳房硬化の増加はみられなかった。

・他の正常組織硬化の発生頻度は低く、両群で同等か40 Gy群で少なかった。

・9年局所領域再発率は低かった。

 

とある放射線治療医の備忘目録(まとめ)

http://radiatpost.info/

 

【関連】

日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン

Q34.乳房温存手術後の放射線療法はどのように行われるのでしょうか。 | ガイドライン | 患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版

 

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