とある放射線治療医の備忘目録

とある放射線治療医の覚書

ESMO 前立腺がん診療ガイドライン 2020、ホルモン感受性転移性前立腺がん

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【まとめと雑感】

・これまで、転移のある前立腺がんの患者さんに対して、前立腺に対して放射線治療を行う機会は少なかったと思います(排尿障害などの症状緩和を目的とすることはありました)

・ランダム化比較試験結果から、臓器転移がなく、骨転移も少ない患者さん(low volume)の前立腺がんの患者さんでは、前立腺放射線治療を行うことにより生存成績が改善できる報告されていましたが、今回のESMOガイドラインでは推奨される治療として記載されました。

・転移の少ない患者さんでは、転移部への体幹部定位放射線治療などによる局所治療の有効性の確認も重要となってきているように思います。

 

Ann Oncol. 2020;31:1119-1134. PMID: 32593798

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32593798/

 

・ホルモン療法治療歴のない転移性前立腺がんでは、アンドロゲン抑制療法へ、アビラテロン、アパルタミド、エンザルタミド または ドセタキセルを追加することにより全生存の改善効果が認められる。

臨床試験の大半の患者は、診断時に遠隔転移を合併していた患者を対象としており、局所治療後の遠隔転移再発に対して用いる際には注意が必要。

 

・ホルモン治療歴のない転移性前立腺がんに対するドセタキセルの有用性は2つの第3相ランダム化試験(CHAARTED および STAMPEDE)から確立されている。

・CHAARTED試験では790例アンドロゲン抑制療法単独群とアンドロゲン抑制療法へドセタキセルによる化学療法を併用する群にランダム化された。

ドセタキセルによる化学療法は 75 mg/m2、21日毎、6サイクル行われた。

ドセタキセル併用群で全生存が良好であった(HR 0.72, 95% CI 0.59-0.89)

・STAMPEDE試験は、multi-armの第3相試験で、種々の治療をアンドロゲン抑制療法を追加することにより全生存を改善するかの検討がなされた。

・STAMPEDE試験では、M0患者およびM1患者、いずれもが登録された。

・患者をアンドロゲン抑制療法単独群(1184例)とドセタキセル併用群 (ドセタキセル 75 mg/m2、21日毎とプレドニゾン 10 mg/日を6サイクル)(592例)に割付けられた。

・M1患者では、ドセタキセルを追加することにより、全生存の改善効果が認められた(HR 0.76, 95% CI 0.52-0.92)

ドセタキセルの併用は、ゾレドロン酸の併用と同様であった(HR 0.79, 95% CI 0.66-0.96)

・3つ目の研究、GETUG-AFU 15では、ホルモン治療歴のない転移性前立腺がん患者 385例がアンドロゲン抑制療法単独群とアンドロゲン抑制療法とドセタキセルの併用(ドセタキセル 75 mg/m2、21日毎、9サイクル)にランダム化された。

ドセタキセル併用群でPSAの増悪生存および画像的な無増悪生存の改善がみられたが、全生存の改善効果は認められなかった(HR 1.01, 95% CI 0.75-1.36)

・CHAARTED試験のサブグループ解析では、腫瘍量 high-volume disease (HR 0.63, 95% CI 0.50-0.79)の患者で効果が大きく、high-volume diseaseは臓器転移および/あるいは4か所以上の骨転移(少なくとも1か所は椎体または骨盤外の転移)と定義されていた。

・しかしながら、CHAARTED、STAMPEDE および GETUG-AFU 15のメタアナリシスでは、腫瘍量によらず、アンドロゲン抑制療法へのドセタキセルの追加による全生存の改善効果が認められた(HR 0.77, 95% CI 0.68-0.87)。

 

・アンドロゲン抑制療法へのアビラテロンの追加による全生存の改善効果は、2つの第3相ランダム化比較試験(LATITUDE、STAMPEDE)で示されている。

・いずれの試験においても、アンドロゲン抑制療法単独とアンドロゲン抑制療法へアビラテロン 1000 mg + プレドニゾン 5 mg/日の併用を病勢増悪まで継続にランダム化されている。

・LATITUDEでは、1199例の高リスク転移性前立腺がん(2つ以上のリスク因子;グリソンスコア8以上、3個以上の骨転移または臓器転移)がランダム化された。

・アンドロゲン抑制療法へのアビラテロンの追加による有意な全生存の改善効果が示された(HR 0.62, 95% CI 0.51-0.76)

・クロスオーバー後、2年の追加経過観察期間を加えても、同様の結果が確認された(HR 0.66, 95% CI 0.56-0.78)

・同様の生存成績のベネフィットがSTAMPEDE試験のM1サブグループで認められた(HR 0.63, 95% CI 0.52-0.76)。

・LATITUDE試験では、診断時に遠隔転移を合併していた前立腺がん患者のみが登録されており、STAMPEDE試験では再発性のM1患者は5%のみであった。

・したがって、遠隔転移再発例に対するアンドロゲン抑制療法へのアビラテロンの追加のベネフィットは不確かである。

 

・第3相試験 TITAN試験では、転移性前立腺がんに対する、アンドロゲン抑制療法へのアパルタミドの追加による全生存の改善効果が示された。

・試験では、1052例が、アンドロゲン抑制療法単独群とアンドロゲン抑制療法とアパルタミド 240 mg/日の併用群にランダム化された。

・16%の患者に対しては限局性病変に対する治療が行われており、遠隔転移再発(M1)時に登録された。

・11%の患者では、早期のドセタキセル治療歴があった。

・多くの(63%)患者はhigh-volume diseaseであった。

・アパルタミドを追加することにより全生存の改善効果が認められ(HR 0.67, 95% CI 0.51-0.89; p=0.005)、腫瘍量による有意な差異は認められなかった。

ドセタキセル治療後にアパルタミド治療を受けた患者の数が限られており、この治療戦略におけるベネフィットは不明である。

 

・アンドロゲン抑制療法へのエンザルタミドを追加することによるベネフィットは、2つの第3層試験(ARCHES、ENZAMET)により確立された。

・ARCHESは、遠隔転移合併前立腺がん患者1150例が、アンドロゲン抑制療法とプラセボ投与群とアンドロゲン抑制療法へエンザルタミド 160 mg/日を併用する群にランダム化された。

・腫瘍量、ドセタキセル治療歴による層別化が行われた。

・中間解析時点で、主要評価項目が確認され、画像的無増悪生存の改善効果が認められた(HR 0.39, 95% CI 0.30-0.50; p<0.001)

・画像的無増悪生存のベネフィットは予め設定された腫瘍量やドセタキセルによる化学療法歴を含む、いずれのサブグループにおいても認められた。

・この中間解析の時点での全生存の成績は immature であった。

・2つ目の第3相ランダム化試験、ENZAMETでは、1125例の転移性前立腺がん患者が、アンドロゲン抑制療法と他の非ステロイド性抗アンドロゲン薬(ビカルタミド、ニルタミド、フルタミド)との併用と、アンドロゲン抑制療法とエンザルタミドの併用にランダム化された。

・エンザルタミドによる全生存の改善効果が認められた(HR 0.67, 95% CI 0.52-0.86)

・これがandrogen receptor signaling inhibitorとドセタキセルの同時併用/非併用を評価した試験であった。

・45%の患者ではドセタキセル治療が予定された。

ドセタキセル治療が予定されなかった患者の全生存のハザード比は 0.53 (95% CI 0.37-0.75)、ドセタキセル治療が予定された患者の全生存のハザード比は 0.90 (95% CI 0.62-1.31)

ドセタキセルとアンドロゲン抑制療法の併用とアビラテロンとアンドロゲン抑制療法の併用が、STAMPEDE試験のopportunistic randomized analysisにより比較され、M1サブグループでは同等の治療成績であることが示唆された。

・一方で、間接的なBayesian comparisonでは、生存成績と生活の質(QoL)のベネフィットは、ドセタキセルと比較して、アビラテロンで大きい可能性が示唆されている。

・どの治療を選択するかのバイオマーカーは同定されておらず、アビラテロン、アパルタミド、エンザルタミド または ドセタキセル、いずれの治療を行うかは費用や治療へのアクセス、毒性プロファイル、治療期間、合併症や患者の選好を考慮する必要がある。

 

【ホルモン治療歴のない転移性前立腺がん】

 

・2つのランダム化試験(HORRAD、STAMPEDE)において、転移性前立腺がん患者に対する、生涯のアンドロゲン抑制療法(lifelong androgen deprivation therapy)単独とアンドロゲン抑制療法へ前立腺原発部への放射線治療の追加の比較が行われた。

・HORRAD試験では、446例をアンドロゲン抑制療法単独群とアンドロゲン抑制療法へ前立腺への放射線治療(70 Gy/35回、7週間 または 57.76 Gy/19回 6週間)を行う群にランダム化された。

放射線治療によるPSAの無増悪期間(time to PSA progression)の延長効果が認められた(HR 0.78, 95% CI 0.63-0.97)が、全生存の有意な改善効果は認められなかった(HR 0.90, 95% CI 0.70-1.14)。

・STAMPEDE試験では、いずれの群においてもドセタキセルの追加を許容していた。

前立腺への放射線治療の追加はドセタキセルの最終投与から3-4週後より行われた(55 Gy/20回 4週 または 36 Gy/6回 6週)。

放射線治療による無再発生存の改善効果が認められた(HR 0.76, 95% CI 0.68-0.84; p<0.0001)が、全生存の改善効果は認められなかった(HR 0.92, 95% CI 0.86-1.06)

・予め予定していたCHAARTED low volume群のサブグループ解析において、放射線治療によるfailure-free survival (HR 0.59, 95% CI 0.49-0.72)および全生存(HR 0.68, 95% CI 0.52-0.90)の改善効果が認められた。

 

・骨に対する治療および治療関連性の骨粗鬆症の予防も前立腺がんに対しホルモン療法を行う男性において重要な治療の一環である。



【推奨】

・ホルモン療法歴のない転移性前立腺がんに対し、アビラテロン/プレドンゾン、アパルタミド、ドセタキセル あるいは エンザルタミド併用のアンドロゲン抑制療法が初期治療として推奨される。

・low volumeのホルモン感受性転移性前立腺がんに対しては、全身治療併用での前立腺に対する放射線治療が推奨される。

・アビラテロン、アパルタミド、エンザルタミドおよびドセタキセル治療が適さない患者に対しては、アンドロゲン抑制療法単独治療が推奨される。

・アンドロゲン抑制療法が開始される男性に対しては、治療関連性の骨粗鬆症の予防治療が推奨される。

 

とある放射線治療医の備忘目録(まとめ)

http://radiatpost.info/wiki/toc/

 

【関連】

前立腺癌診療ガイドライン 2016年版
前立腺全摘除術
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