とある放射線治療医の備忘目録

とある放射線治療医の覚書

ESMO 前立腺がん診療ガイドライン 2020、前立腺摘出術後放射線治療、サマリ

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【まとめと雑感】

前立腺がんに対する前立腺摘出術後の放射線治療を行う適切なタイミングには議論がありました。

・最近のランダム化比較試験(RADICALS-RT、RAVES、GETUG-17)結果から、アジュバント放射線治療(術後放射線治療)を避け、PSA再発時に早期に救済放射線治療を行う流れになりそうです。

・ESMOガイドラインではPSA値 <0.5 ng/mLでの救済放射線治療が推奨されていますが、本邦の研究 (JROSG survey)結果やRAVESやGETUG-17試験におけるPSA再発の基準を参考にすると、より早期 (PSA 0.2 ng/mL程度)で放射線治療を行った方が治療成績はよいのではないかと思います。

・ホルモン療法(アンドロゲン抑制療法)の併用に関しては、施設や医師により考え方が異なります。全生存の改善を証明したビカルタミド 150 mg/日 2年間の併用は、日本では保険適応がありません。個人的には、グリソンスコア 8以上などリスクが高い方では、放射線治療後の再々発が多いように感じますし、ホルモン療法併用の方がよいのかなと思います。

 

Ann Oncol. 2020;31:1119-1134. PMID: 32593798

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

ESMO Clinical practice guidelines (2020) 

前立腺がん術後放射線治療

前立腺がんに対する前立腺摘出術後の放射線は、アジュバント放射線治療(術後放射線治療)(adjuvant radiotherapy, ART)として行われる場合と、persistent PSA (PSAが術後に下がりきらなかった場合)やPSAの上昇が認められた場合に行われる救済放射線治療(salvage radiotherapy, SRT)がある。

・3つのランダム化比較試験(EORTC 22911, SWOG 8794、ARO96-02)で、アジュバント放射線治療と経過観察が比較されている。

・いずれの試験においても、生化学的制御(PSA制御)は、アジュバント放射線治療で良好であったが、全生存の改善効果は認められなかった。

・最近、アジュバント放射線治療と早期の救済放射線治療を比較した3つの試験結果(RADICALS-RT、RAVES、GETUG-17)が報告された。

・これら3つの試験のメタアナリシス(ARTISTIC meta-analysis)がESMO 2019で報告された。

・早期救済放射線治療と比較して、アジュバント放射線治療で有害事象(膀胱や消化管障害)が多く、生化学的無増悪生存(biochemical progression-free survival)の改善効果は認められなかった。

・したがって、経過観察を行い、PSA再発が認められた時点で救済放射線治療を行うことが現在の標準治療である。

・救済放射線治療は早期に行われるべきである。

・救済放射線治療が、PSA <0.5 ng/mLで行われた場合に、治療成績が良好であることが報告されている。

 

・3つのランダム化比較試験で、救済放射線治療単独と救済放射線治療とアンドロゲン抑制療法(ホルモン療法)の併用の比較が行われた。

・GETUG-AFU 16、RTOG 0534では6ヶ月のアンドロゲン抑制療法の併用、RTOG 9601では24ヶ月のビカルタミドの併用が行われた。

・RTOG 9601では、ビカルタミドの長期併用により、前立腺がん死亡の減少(HR 0.77, 95% CI 0.59-0.99; p=0.04)および全生存の改善効果(HR 0.49, 95% CI 0.32-0.74; p<0.001)が示された。

・事後サブグループ解析(post hoc subgroup analysis)では、救済放射線治療前のPSA値 0.7 ng/mL、グリソンスコア 8-10、切除断端陽性で、ビカルタミドの併用の効果が大きいことが示唆されている。

・GETUG-AFU 16試験では、アンドロゲン抑制療法の併用により、遠隔無再発生存の改善効果(HR 0.73, 95% CI 0.54-0.98; p=0.034)が示されたが、全生存の有意な改善効果は示されなかった。

 

・SPPORT試験の結果が2018 American Society for Radiation Oncology annual meetingで報告された。

前立腺床のみへの放射線治療±6ヶ月間のアンドロゲン抑制療法の併用と、骨盤照射と6ヶ月間のアンドロゲン抑制療法の併用の比較が行われた。

前立腺床のみへの照射と比較して、骨盤照射を追加することにより、無再発期間 (freedom from failure) の延長が認められ、遠隔無再期間(freedom from metastases)の延長効果がみられた(HR 0.52, 95% CI 0.32-0.92; p=0.014)

・全生存は両群間で有意差は認められなかった。

 

推奨:

前立腺がんに対する前立腺摘出術後の患者では、PSA値の定期的なモニタリングを施行し、PSA再発が認められた場合に救済放射線治療を施行する [III, B]

アジュバント放射線治療(術後放射線治療)の日常的な施行は推奨されない [I, B]

・救済放射線治療は早期(例えば PSA値 < 0.5 ng/mL)[III, B] に施工されるべきである。

・救済放射線治療を行う患者に対しては、6ヶ月間の同時アンドロゲン抑制療法 または ビカルタミド 150 mg/日を2年間の併用を提案しても良い [I, B] (*日本での保険適応なし)

・救済放射線治療で、前立腺床への照射が行われる場合、骨盤照射を提案しても良い [I, C]

 

とある放射線治療医の備忘目録(まとめ)

http://radiatpost.info/wiki/toc/

 

【関連】

前立腺癌診療ガイドライン 2016年版
12 救済療法:根治的治療(手術・放射線)後の再発治療

http://www.jsco-cpg.jp/prostate-cancer/guideline/#XII