とある放射線治療医の備忘目録

とある放射線治療医の覚書

高齢者食道がん 化学放射線療法 vs. 放射線治療単独

Xia X, et al. Front Oncol 2021. PMID: 34557416

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

・高齢者(65歳以上)食道がんに対する化学放射線療法と放射線治療単独療法後の予後を、米国 SEER databaseを用いて比較した。
放射線治療単独と比較して、化学放射線療法後の全生存および食道がん特異的生存が良好であった。
・高齢者の食道がんであっても、放射線治療へ化学療法を追加することにより予後の改善が見込める様子。

 

 

・高齢者(65歳以上)食道がん;化学放射線療法 vs. 放射線治療単独
・Population based study (SEER database)

 

<背景>
・手術が行われない食道がんに対する主な治療は放射線治療(RT, radiotherapy)です。
・高齢者食道がん患者において、放射線治療へ化学療法を追加することにベネフィットがあるかに関しては議論があります。
・今回の研究の目的は、手術が行われなかった食道がん患者において、化学放射線療法と放射線治療単独の有効性を比較することです。

 

<方法>
・SEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)2000-2018年から、適格患者 7,101例を同定した。
放射線治療単独群と化学放射線療法群にグループ化して評価を行った。
・Propensity score matching(PSM)後、1:1の割合で、3020例の解析を行った。

 

<結果>
・PSM後、放射線治療単独群と化学放射線療法群の患者背景は同様のものであった。
・65歳以上の食道がん患者で、化学放射線療法後の3年全生存率 21.8%、3年食道がん特異的生存率 27.4%。
・化学放射線療法後の5年全生存率 12.7%、5年食道がん特異的生存率 19.8%。
・65歳以上の食道がんで、放射線治療単独後の3年全生存率 6.4%、3年食道がん特異的生存率 7.2%。
放射線治療単独後の5年全生存率 3.5%、5年食道がん特異的生存率 7.2%。
・患者を年齢に応じて5つのグループに分けて解析を行った(65-69歳、70-74歳、75-79歳、8-84歳、85歳以上)
・いずれの年齢グループにおいても、3年および5年全生存および食道がん特異的生存は化学放射線療法で良好であった(all p<0.05)
・関連する情報が得られず、両群間の毒性評価比較は不能であった。

 

<結論>
・手術が行われなかった高齢者食道がん患者において、放射線治療単独と比較して、化学放射線療法が施行された患者の全生存およびがん特異的生存が良好であった。
・高齢者食道がん患者において、放射線治療へ化学療法を追加することによる有意な予後の改善効果が示唆される。

 

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前立腺がんに対する根治治療後 人種による前立腺がんの予後の違い

Würnschimmel C, et al. Int J Urol. 2021. PMID: 34553428

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

・米国SEER databaseにて、前立腺がんに対する手術または放射線治療後の前立腺がんによる死亡率を人種により違いがあるのかを検討した。
・白人と比較して、アジア系アメリカ人では放射線治療後の前立腺がん死亡率が低く、高リスク前立腺がんではアジア系アメリカ人で手術後の前立腺がんによる死亡率が低かった。
・白人と比較して、アジア系の人種の限局性前立腺がんに対する根治治療後の前立腺がんの予後は比較的良好な様子。

 

前立腺がんに対する放射線治療(外照射)または 根治的前立腺全摘出術後
・人種による治療成績差
・Population-based study (米国 SEER database)

 

<目的>
・限局性前立腺がん患者に対する根治的前立腺全摘除術 または 放射線治療(外照射)後の前立腺がん特異的死亡への人種の影響を評価すること。

 

<方法>
・SEER(Surveillance, Epidemiology and End Results)2004-2016年において、中リスクおよびこうリスクの前立腺がんに対し、根治的前立腺全摘除術または放射線治療(外照射)が施行された患者を同定した。
・白人(151,632例)、ラテン系アメリカ人(20,077例)、アフリカ系アメリカ人(32,550例)、アジア系アメリカ人(11,189例)。

 

<結果>
・白人と比較して、アジア系アメリカ人の中リスク/高リスク限局性前立腺がん患者で、放射線治療(外照射)が行われた患者では、前立腺がん特異的死亡が少なかった(中リスク HR 0.58, P<0.02、高リスク HR 0.70, p<0.02)
・白人と比較して、アジア系アメリカ人の高リスク限局性前立腺がん患者で、根治的前立腺全摘除術が施行された患者では、前立腺がん特異的死亡率が低かった(HR 0.72, p=0.04)、一方、中リスク群では有意な差異を認めなかった(p=0.08)。
・対して、白人と比較して、アフリカ系アメリカ人で、中リスク前立腺がんに対し根治的前立腺全摘除術が施行された患者では、前立腺がん特異的死亡率が高かった(HR 1.36, p=0.01)。
・高リスクに対する根治的前立腺全摘除術後、中リスク/高リスクに対する放射線治療(外照射後)前立腺がん特異的死亡率は、アフリカ系アメリカ人と白人で有意な差異を認めなかった。
・白人とラテン系アメリカ人の比較において、中リスク/高リスク前立腺がんに対する根治的前立腺全摘除術および放射線治療(外照射)後の前立腺がん特異的死亡率に有意差を認めなかった。

 

<結論>
・白人と比較して、アジア系アメリカ人では中リスク/高リスク前立腺がんに対する放射線治療(外照射)後の前立腺がん特異的死亡率は低かった。
・高リスク前立腺がんに対し根治的前立腺全摘除術が施行されたアジア系アメリカ人では、白人と比較して、前立腺がん特異的死亡率が低かった。

 

 


 

有痛性脊椎転移に対する体幹部定位放射線治療の有効性と安全性

Guckenberger M, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2021. PMID: 33412262

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

・痛みのある脊椎転移に対し、体幹部定位放射線治療により高線量の照射を行った。
・3ヶ月後に痛みが軽減/消失した割合は82%で、放射線脊髄炎を発症した患者はみられなかった。
体幹部定位放射線治療による疼痛の改善効果が多くの患者でみられ、生活の質(QOL)が改善され、晩期の毒性は最小限のものであった。

 

・有痛性脊椎転移に対する体幹部定位放射線治療
・第2相試験、長期成績

 

<目的>
・有痛性脊椎転移に対する分割体幹部定位放射線治療(SBRT, stereotactic body radiation therapy)の長期成績を報告すること。

 

<対象と方法>
・前向き、単アーム、多施設共同、第2相試験
・2012年3月-2015年7月、57例、63脊椎病変を登録した
・長期生存が期待できる患者(Mizumoto score 4以下)に対しては48.5 Gy/1回、中期の予後が期待できる患者(Mizumoto score 5-9)に対しては35 Gy/5回の照射を施行した。
・疼痛の奏効:visual analog scaleにて2以上の改善と定義した

 

<結果>
・57例に対しプロトコール治療を施行し、32例に対し10分割、25例に対し5分割照射を施行した。
・生存例の経過観察期間(中央値)60ヶ月(33-74ヶ月)
・評価可能な患者にいて、3ヶ月時点で82%に疼痛の奏効(完全奏効/部分奏効)が得られていた。
・全生存率:1年 59.6%、3年 33.3%、5年 21%。
・局所椎体転移無増悪生存率は、最終経過観察時点で82%。
・晩期のGrade 3毒性は非奏効例の2例のみであった。
・脊髄炎を発症した患者を認めなかった。
・不安や抑うつを除き、体幹部定位放射線治療により、EuroQol5 Dimension Questionnaireの長期の改善が得られた。

 

<結論>
体幹部定位放射線治療により高い疼痛奏効が得られ、晩期毒性は最小限で、QOLの改善効果がみられた。

 

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本邦における食道がん

Watanabe M, et al. Esophagus. 2021. PMID: 34550491

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

<背景>
日本食道学会(JES, Japan Esophageal Society)の the registration committee for esophageal cancerは、患者背景や治療、治療成績を毎年収集している。

 

<方法>
・2014年に来院した患者のデータ解析を行った。
・National Clinical Databaseを用いたウェブベースのデータ収集システムにより、データを収集した。
・JESによるJapanese Classification Esophgeal Cancer 10 th edition および TNM分類 UICC(Union of International Cancer Control)7th editionをがんのステージングに用いた。

 

<結果>
・本邦 344施設より、合計9026例が登録された。
・組織型は、扁平上皮がん 87.9%、腺がん 7.1%であった。
・5年生存率は、内視鏡的切除例 87.1%、同時化学放射線療法施行例 33.7%、放射線治療単独治療例 25.3%、食道切除術施行例 59.3%であった。
・食道切除術が5204例に対し施行されていた。
・食道切除術が行われた患者のうち、48.1%は胸腔鏡下に手術が行われていた。
・周術期死亡率(operative mortality)(手術後30日以内の死亡)は0.75%で、院内での死亡率は2.0%であった。
・JESシステムによる生存曲線のdiscriminatory ablityは、臨床病期、病理学的病期、いずれも良好であった。
・UICCシステムでは、鎖骨上リンパ節転移(M1 LYM)が病理学的IV期に含まれるため、病理学的病期 IV期の生存成績が IIIIC期よりも良好であった。

 

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前立腺がん 少数転移に対する体幹部定位放射線治療は実行可能か?

Siva S, et al. Eur Urol. 2018. PMID: 30227924

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

前立腺がん 少数転移(転移の個数 1-3個)の患者に対し体幹部定位放射線治療を行った。
・2年後の局所制御率は93%、39%の患者では2年間病気の進行を認めず、ホルモン療法が行われていなかった患者のうち、およそ半数はホルモン療法の開始を回避できていた。
重篤な治療に関連した有害事象の頻度は低く(Grade 3椎体骨折 3.0%)、前立腺がん オリゴ転移/少数転移に対する体幹部定位放射線治療は安全に施行可能であった。

 

前立腺がん、オリゴ転移(少数転移)に対する体幹部定位放射線治療
・前向き研究、オーストラリア

 

<背景>
前立腺がん オリゴ転移(少数転移)に対し体幹部定位放射線治療(SABR, stereotactic ablative body radiotherapy)が行われるようになてきている。
・しかしながら前向きのエビデンスに関しては限られている。

 

<目的>
前立腺がん オリゴ転移(少数転移)に対する単回照射による体幹部定位放射線治療の安全性と実行可能性を評価すること。
・副次評価項目:局所無増悪生存、遠隔無増悪生存、毒性、QOL、PSAの奏効(prostate-specific antigen response)

 

<対象と方法>
・今回の前向き研究では、CT、骨シンチ、sodium fluoride PETにて評価を行い、1-3個のオリゴ転移(少数転移)の患者を登録した。

 

<介入>
・単回照射による体幹部定位放射線治療(20 Gy)

 

<結果>
・2013-2014年、33例の患者、55少数転移病変に対し体幹部定位放射線治療が施行され、2年間経過観察された。
・年齢(中央値)70歳、グリソンスコアが8以上の患者が15例(45%)。
・骨転移のみの患者が20例、12例はリンパ節転移のみ、1例は骨転移およびリンパ節転移であった。
体幹部定位放射線治療が97%のケースに対し施行可能で行われた。
・Grade 3有害イベントが1例に認められた(3.0%, 椎体骨折)。
・死亡例は認められなかった。
・局所無増悪生存率:1年 97%、2年 93%。
・遠隔無増悪生存率:1年 58%、2年 39%。
・アンドロゲン抑制療法が行われていなかった患者22例のうち、2年アンドロゲン抑制療法回避率は48%であった。
・ベースラインからのQOLの有意な変化を認めなかった。

 

<結論>
前立腺がんのオリゴ転移/少数転移に対する単回照射による体幹部定位放射線治療は実行可能で合併症の発生率は低いものであった。
・1/3人以上で増悪が認められ、2年時点でホルモン療法を回避していた。体幹部定位放射線治療後もQOLは維持されていた。

 

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高リスク前立腺がんに対する手術(根治的前立腺全摘除術) vs. 放射線治療(外照射)

Chierigo F, et al. J Urol. 2021. PMID: 34555930
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34555930/

 

・高リスク、超高リスク前立腺がん;根治的前立腺全摘除術(RP, radical prostatectomy) vs. 放射線治療
・Population-based study(SEER database)

 

・米国のデータベース(SEER database)を使って、(NCCN分類)高リスク前立腺がんに対する手術(前立腺全摘除術)と放射線治療(外照射)後の前立腺がんにより死亡した患者の割合を比較した。

・5年間に前立腺がんにより死亡した患者の割合は、根治的前立腺摘出術後2.3%、放射線治療後 4.1%。

・高リスク前立腺がん(特にJohns Hopkins University分類で超高リスク)の患者では、前立腺全摘除術後の方が前立腺がんによって死亡する患者は少ないかもしれない。

 

<目的>
・National Cancer Network(NCCN)高リスク(HR, high risk)およびJohns Hopkins Unviversity(JH)高リスク(HR)および超高リスク(VHR, very high risk)前立腺がんに対する根治的前立腺全摘除術と外照射(EBRT, external beam radiotherapy)後のがん特異的死亡(CSM, cancer specific mortality)を比較すること。

 

<対象と方法>
・2010-2016年、SEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)databaseにて、NCCN 高リスク患者 24,407例を同定、これらのうち10,300例(42%)はJohns Hopkins University 高リスク、14,107例(58%)はJohns Hopkins University 超高リスクであった。
・9823例(40%)に対し根治的前立腺全摘除術、14584例(60%)に対し放射線治療(外照射)が行われていた。
・Propensity score matching(年齢、PSA、臨床T病期、N病期、生検グリソンスコア)後、1:1の割合で累積がん特異的死亡率を算出し、比較を行った。
・結果:NCCN高リスクコホートにおいて、5年前立腺がん特異的死亡率は、根治的前立腺全摘除術群 2.3%、外照射群 4.1%(multivariate hazard ratio, 0.68, 95% CI 0.54-0.86, p<0.001)であった。
・超高リスク群において、5年前立腺がん特異的死亡率は、根治的前立腺全摘除術群 3.5%、外照射群 6.0%(multivariate HR 0.58, 95% CI 0.44-0.77, p<0.001)で、根治的前立腺全摘所術群で良好であった。
・一方、高リスク群においては、5年前立腺がん特異的死亡率は、前立腺全摘除術群と外照射群の間に差異を認めなかった(HR 0.7, 95% CI 0.39-1.25, p=0.2)

 

<結論>
前立腺がんNCCNリスク分類高リスクの患者において、放射線治療(外照射)と比較して根治的前立腺全摘除術後の前立腺がん特異的死亡率は低いようで、これはJohns Hopkins Univrsity分類超高リスク群で差が認められる様子。

 

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小数転移/オリゴ転移に対する体幹部定位放射線治療 システマティックレビュー/メタアナリシス

Lehrer EJ, et al. JAMA Oncol. 2021. PMID: 33237270

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

・少数転移/オリゴ転移に対する体幹部定位放射線治療(SBRT, stereotactic body radiotherapy)の安全性と生存割合
・システマティックレビュー/メタアナリシス

 

<重要性>
・少数転移/オリゴ転移パラダイムは、遠隔転移病変の数が限定的で、全ての病変に対しablativeな局所治療を行うことにより治癒が得られる可能性がある。
体幹部定位放射線治療(SABR, stereotactic ablative radiotherapy)は放射線治療法の一つで、少数転移/オリゴ転移の状態の患者に対し広く行われている。
・しかしながら、多くは単施設の研究データによるもので前向きのデータは限られている。

 

<目的>
・少数転移/オリゴ転移に対する体幹部定位放射線治療の安全性と臨床的なベネフィットをメタアナリシスにより評価を行うこと。

 

<方法>

・2019年12月、PubMed/MEDLINE、EMBASE、Cochrane Database of Systematic Reviews、Cumulative index to Nursing and Allied Health Literatureの検索を行った。
・組み入れ基準:前向き研究で、少数転移/オリゴ転移(頭蓋外病変5個以下)、体幹部定位放射線治療(分割回数8回以下)、1回線量 5 Gy以上による照射が行われた研究
・主要評価項目:安全性(急性期および晩期の Grade 3-5毒性)、臨床的ベネフィット(1年局所制御、1年全生存、1年無増悪生存)

 

<結果>
・21研究、943例、1290少数/オリゴ転移病変を解析した。
・年齢(中央値)63.8歳(IQR 59.6-66.1歳)
・経過観察期間(中央値)16.9ヶ月(IQR 13.7-24.5ヶ月)
・主な原発巣は、前立腺(22.9%)、大腸(結腸/直腸)(16.6%)、乳房(13.1%)、肺(12.8%)であった。
・Grade 3-5毒性発生割合は、急性期 1.2%(95% CI 0-3.8%)、晩期 1.7%(95% CI 0.2-4.6%)
・1年局所制御割合 94.7%、1年全生存割合 85.4%、1年無増悪生存割合 51.4%

 

<結論>
・今回のメタアナリシスにおいて、少数転移/オリゴ転移に対する体幹部定位放射線治療は比較的安全で、急性期および晩期の Grade 3-5毒性の発生割合は13%未満で臨床的に許容範囲の様子。

・1年局所制御、全生存、無増悪生存の治療成績も臨床的に許容範囲の様子。

 

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